進学情報センターってどんなところ?
進学情報センターは平成元年に設立された、進学選択に関する情報の発信や相談対応を行っている機関です。学生個人個人の学問的関心や適性に基づき進路の選択ができるよう、資料室では各学部の資料や点数分布グラフなどを閲覧でき、相談室では個別の相談を行うことができます。今回は進学情報センターをどのように活用していけばよいかだけでなく、どのように進学先を考えればよいかについても、担当教員の青木先生、永井先生に伺ってみました。(進学情報センターのHPはこちらです:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/agc/)
・場所:東京大学駒場Ⅰキャンパス1号館2階
・資料室利用時間:月曜〜金曜 10時〜17時
・相談:現時点では主にメール
※現在、新型コロナウイルスに関連する対応のため体制が変わっています。詳しくは進学情報センターのHPをご覧ください。
インタビュー
──はじめに、先生方の専門について簡単に教えてください。
青木先生:
高校の範囲でいうと化学で、大学の範囲でいうと物理化学、研究の範囲でいうと表面科学になります。
永井先生:
平安時代の古典が専門で、絵巻物などの研究をしています。
──進学情報センターの特徴についてお伺いします。進学情報センターではどのようなことができるのでしょうか。
青木先生:
進学に関する情報を調べるきっかけを提供しています。やみくもに進路決定をしてしまうと、思っていたものと違った方向に行く可能性がありますが、調べるとなった時にどういった資料にアクセスすればよいのかを示しています。
コロナ禍では紙媒体での情報収集が難しいため、デジタル媒体の情報(Zoomでの学科紹介など)が得られるよう、HPなどで案内しています。個別の相談については、現在はメールでのやりとりを中心に、電話、そして希望者には対面での対応を行っています。敷居を感じることなく相談してもらえればと思います。
いずれにせよ、点数分布の公表なども含め、進路決定のために調べる手助けを行っているということです。
──進学情報センターで閲覧できる資料の特徴などはありますか。
青木先生:
各学部の便覧や学科等のパンフレット類を閲覧することができます。開講されている授業などについては、UTASを見てもらえれば、ある程度詳細まで調べることができます。また、UTASでは1年分しか公開されていませんが、進学情報センターでは、過去に遡った点数分布を閲覧できる点が特徴かと思います。
──学部1年生はどのように進学情報センターを利用するのがおすすめでしょうか。
青木先生:
毎年4月に進学選択シンポジウムを開催していますが、そこでは後期課程のさらに先を見据えた進路の話を聞くことができます。そうした機会を利用して、短期的でなく長期的な視野を持って考えて欲しいと思います。遠いところからだんだん自分に近いところに向かって進路を絞っていくということですね。
理系は特に必修科目が多く授業を受けるだけで大変かと思いますが、総合科目や展開科目・ゼミなどで、大学ではどういった学問が開かれているのかを知ることが、進学情報センターを利用するよりも、刺激になるんじゃないかと思います。
永井先生:
進学情報センターにある資料ももちろん活用してもらいたいですが、それだけでなく、各種説明会・ガイダンスや研究室公開などの機会をフルに活用してほしいと思います。
青木先生:
注意しておいたほうがよいのが、文系から理系の進学先にいくことを決めている場合などは、取らなければいけない科目(要求科目など)がありますので、「履修の手引き」を参照して計画をたてる必要がある、ということです。
永井先生:
成績との兼ね合いという現実的な問題を抜きにしても、さまざまな分野に興味を持ってガイダンスなどを聞いてみるとよいと思います。
──続いて進学情報センターの利用状況についてお伺いします。現在相談についてはメールを中心に電話・対面と合わせて行われているとのことですが、対面で行っていた時期と比較してどれくらいの相談があるのでしょうか。
青木先生:
メールでの相談は以前までの対面での相談に比べると若干少ないと思います。7割くらいでしょうか。減ったとはいえ相談数は多く、メール、電話、対面での相談数の合計は、例えば今年4月は70件を超えました。
──相談したい内容をメールで送ったらどのくらいでお返事をいただけるのでしょうか。
青木先生:
内容とタイミングによります。Yes/Noで答えられる質問であればすぐに返せることもありますし、広い範囲にわたるような内容であれば、確認のため多少時間が必要になることもあります。
永井先生:
土日祝日や夜間の連絡の場合は多少お待たせすることがあるかもしれませんが、返信まで2~3日空けてしまうことは基本的にないようにしています。
──相談にはどのようなものが多いのでしょうか。
青木先生:
多いもので言えば、特定の学部に進学できる可能性が高いかどうかや、どのように履修すればよいか、ということでしょうか。どこにいったらよいか悩んでいる学生もおり、この場合は対面でなければ難しい部分があります。後期課程の先も見据えてどの進学先がよいか、という相談や、進学先に対してどんな科目をとったらよいのか、という質問もあります。
永井先生:
就職を見据えて、どこに進学すればよいか、という相談もあり、その場合はキャリアサポート室を紹介したりします。また、心理的に深い悩みを抱えている場合は、学生相談所を紹介することもあります。
──学生が有志でおこなっている学部選択の情報提供や、学内の他の相談機関や相談イベント(たとえば、キャリアサポート室や、グローバリゼーションオフィスでの留学相談や教職課程に関する説明会など)もあると思います。それらと比較した時に、進学情報センターならではの特徴はどのような点にありますか。
青木先生:
各機関やイベントは、お互いに補完しあっていると思います。
私たちはシンポジウムなど開いている関係で学内外の先生と連絡を多くとっているので、学生に提示できるキャリアの幅が広く、学生とは違った目線からのアドバイスができるのではないかと思います。
永井先生:
強いて言うのであれば、たとえば就職に関する相談にはキャリアサポート室が専門的に対応しているように、進学選択に特化していることが進学情報センターの強みだと思います。大学入学後に専門分野を決めることができる東京大学の特色を最も反映している相談機関であると思います。
──目的意識は明確であるが学部が決まっていない前期課程生や、学部は決まっているが将来設計や専攻が決まっていない前期課程生が多くいるかと思われます。先生方はそのような学生にどのようにアドバイスされますか。
青木先生:
「官僚になりたい」「弁護士になりたい」「企業で働きたい」「こういう系統の会社に行きたい」というように、「こういうところに行きたい」という学生は確かに多いですね。進学先と最終的なキャリアをリンクさせるかさせないかは、人それぞれだと思いますので、その人を見てからアドバイスをします。
学生は若いので短期的な視野に立ちやすい面があるのですが、ずっと先のことを考えたときに、目の前の選択も重要ではありますが、そこまで考えすぎる必要はありません。
永井先生:
相談に来る学生の中に、「目的意識は明確だが学部が決まっていない」という学生はよくいます。例えば、外交官になりたい人が「法学部と教養学部のどちらがよいか」と質問をしてくる場合があります。
どんな質問に対しても、「こうしなさい」とは言わず、あくまで一つの意見としてアドバイスをする、というスタンスで相談にあたり、学生が持っていない情報があれば提供しています。その上で学生本人が納得する判断をするのがよいと思っています。
──文理融合分野や文系・理系の中間の学問に関心がある学生の相談には、先生方はどのように対応されますか。
青木先生:
文理の融合分野だけではなく、理系の中でも複数の領域にまたがる融合分野があります。学生が関心のある分野が実は、自ら切り開ける可能性を秘めているという場合もあるので、「この進学先じゃなきゃいけない」と決めつけなくていいのではないかとアドバイスをします。
物理学や数学など、積み上げを必要とする学びをすることが有用な文理融合分野に興味があるならば、理系の学部や経済学系の学部を勧めるかもしれません。そこは分野によります。
永井先生:
学生の進学先が文系寄りか理系寄りかによって、基本的に、理系寄りなら青木先生、文系寄りなら私が対応していますが、文理融合領域の場合などは、青木先生と私の両方が相談に乗ることもあります。
──既存の学問の対象に収まらない分野(サブカルチャーや現代音楽の分野など)に興味がある学生もいると思います。そのような学生に対して、何かアドバイスがあれば教えてください。
青木先生:
東京大学には様々な先生がいて、作曲家の先生もいますし、音楽・アニメを扱っている先生や、美学を扱っている先生もいます。どういった先生が大学にいるのか、その先生がどこの研究所や機関に属しているのか、などを調べるとよいと思います。
永井先生:
学部名や学科名だけからは判断しにくいかもしれませんが、サブカルチャーや現代文化について研究のできるところは複数あります。たとえば、技術的にサブカルにアプローチしたい人は工学部などの理系学部も選択肢になり得るでしょうし、文学部で学ぶ選択肢もあると思います。教養学部でも、アニメや漫画についての卒論を書いた学生が複数います。青木先生もおっしゃるように、学部学科に所属する教員の業績や、学生の卒業論文のテーマ例を調べてみると、その進学単位で何が学べるのかが見えてくるのではないかと思います。
──各学部・学科における理念、留学制度、他学部聴講の単位認定などについては、どんな点を確認しておくのがよいと思われますか。
青木先生:
他学部聴講の単位が認められるかどうかは学部ごとに違うので、進学情報センターではなく各自で確認してほしいです。学科間はもちろんのこと、意外と学部間でも横断したプロジェクトがあるので、そこまで他学部聴講の制度に注意しなくてもいいかと思います。
例えば臨床医や公認心理師になりたい場合、行く学科は決まってきますが、それ以外はそこまで制限されないと思います。
永井先生:
このほか、教員免許状については、学部により取得できる教科が異なりますので、注意が必要です。資格取得を考えている場合には選択肢が限定されてきますが、さまざまな学部学科を見渡したうえで、自分が学びたいことを重点的に学べる進学先を選べばよいと思います。たとえば、先ほど話題にあがったサブカルチャーを学びたい場合には、自分が関心があるのが、技術面なのか、歴史面なのか、あるいは社会学的な面なのかを考えてみるとよいでしょう。自分の関心の主軸に近い学部学科を決めたうえで、必要な場合には、他学部の科目が履修できる制度などを活用すればよいのではないでしょうか。まずは、自分のコアに対応しているかどうかを決め手とするのがよいかと思います。
──進学選択時の成績に関して不安を抱えている学生は多いと思います。進学情報センターではどういったところまで相談できるのでしょうか。例えば基本平均点が志望学科に足りないような時には、どのようなアドバイスをされますか。
青木先生:
進路が複数ある場合は優先順位を決めるよう提案します。第1段階で志望できる学科は1つですが、第2段階では基本的に全学部全学科を書けるので、進学してもよいと思う学科を十分調べた上で、優先順位をつけて志望を出すようアドバイスしています。そのため、まずは進学してもいいなと思う学科を調べ切れているかどうか、確認してほしいです。
ただし、医学部医学科に点数が足りていない場合は難しく、答えにくいところはありますね。
永井先生:
特定の学部学科への進学にこだわりがある場合には、降年という選択肢もあります。ただし、次年度の倍率は分からないため、リスクが伴います。そのため、自分が学びたいことに少しでも重なる学部は他にないか、よく調べてみることを提案します。ただし、「この成績では無理だから志望先を変えなさい」とこちらから言うことはありません。点数のことで悩んでいる場合も、遠慮なく相談して、一度悩みを出し切ってもらった方が、後悔がないのではないでしょうか。
──学部学科選択を考える上で一番大切なことは何だと思われますか。
青木先生:
「長期的な進路を考える上で入り口は一つだけではない」というスタンスですね。
永井先生:
進学選択は重要な決断かもしれませんが、人生の全てが決まるわけではありません。大学院で別のコースに進むこともあり、異なる分野に就職することもあります。ですので、短期的に点数だけで決めるよりは、何十年か先を一度考えてみるのも有効だと思います。また、周りが優秀で自分に自信をなくす学生も多いのですが、一人ひとりに特性はあるので、それを探すことを諦めないでほしいです。
──先生方が一人ひとりの学生に寄り添ったアドバイスをされているのだということが伝わってきました。学生が相談するハードルが下がればいいなと思います。
永井先生:
そうですね。「まだ進路を決めていないのですか」と怒ったり、決断を急かしたりすることはありません。怖いところではありませんので、そう言っていただけると嬉しいです。
──最後にメインとは関係のない質問になりますが、この機会に伺っておきたいことをお聞きします。以前は、各進学先に内定するための最低点(いわゆる底点)が公開されていました。現在、公開を取りやめた理由は何でしょうか?
青木先生:
直接の原因は個人情報保護法改正に則るためです。以前は底点だけでなく、最高点もほぼ見ることができていたため、現在は個人情報は伏せる形にデータを加工し公開しています。
永井先生:
第一段階は点数分布をグラフで公開しており、大体の目安は提供しています。
また、第二段階の情報の有無を聞かれることも多いですが、面接や志望理由書を課す学部学科もあるため、公開し得る点数分布はありません。ただ、第一段階のグラフで未内定者の分布を見れば、第二段階の志望状況をある程度は予測できるかもしれません。公開しているグラフの見方を工夫してもらえればと思います。
──私自身も第一段階のグラフを見てどの位置にいるか確認していたので、ありがたいです。
──時間になりましたのでこれで質問は終わります。お忙しい中お時間をいただきありがとうございました。
青木先生:
いつでも相談に来てください!
永井先生:
1年生も2年生も、進学選択や将来について悩みがあれば、一人で抱え込まず、進学情報センターをどうぞ活用してください。
──本日はありがとうございました。
インタビュー日時:2021年6月21日
※本文中の用語・制度・法令・資格等はインタビュー時点のものです。