精神保健支援室(保健センター精神科)ってどんなところ?

 学生のこころの健康を増進する部門です。精神的不調の相談や治療、健康診断などを行っています。大学生活では様々なストレスもあり、年齢的にも不調が生じやすい時期です。ひとりで抱え込まずに利用してみましょう。(精神保健支援室の公式HPはこちらです。http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/mhs/

本郷キャンパスの精神保健支援室の利用案内

・場所:第2本部棟
・受付時間:平日9:15~17:00(12:50~13:50は一旦閉室)
・予約制
※現在新型コロナウイルスに関連する対応のため体制が変わっています。
詳しくは精神保健支援室のHPをご覧ください。

※駒場・柏キャンパスにもありますのでHPをチェックしてみてください。

インタビュー①—どんなときに利用する?

実際に診療されている精神科医の先生にお話を伺いました。

先生、よろしくお願いします。

—-まず、どのような症状のときに精神医療の受診を検討したら良いのでしょうか。

「あまり迷わずに精神的に辛いときに受診してください。病気かどうかわからない、精神医療の受診をするほどではないと迷われる方もいらっしゃるかもしれませんが、精神的な辛さの原因が病気によるものなのか、環境などが影響していないかといったことを見極めるために、また、精神的な辛さを解決するための見通しを立てるために気軽に相談しに来ていただきたいです。」

—-学外の医療機関に比べて学内の相談所のメリットは何ですか。

「一つのメリットは、学内での連携が取りやすいことです。学生の抱える問題に対し、学生相談所やコミュニケーション・サポートルームと連携を取って対策を取ることや、学生の所属する研究室等に対応をお願いすることもあります。学外の医療機関でも、診断書を媒介にしてこういった支援につなげることは不可能ではありません。ただ例えば学生の研究室の人と話し合いを設けるときなどは、学内の機関からお願いする方が連携しやすい例もあります。」

—-学生が来室に至るきっかけにはどんなものがありますか。

「いくつかあります。大学の講義や本、インターネット等で得た知識から、今の自分は精神的な病気の状態かもしれないと考えて来る方もいれば、友人や家族、先生等に勧められて来る方もいます。また、他の学内の相談機関から勧められて受診するケースもあります。例えば、学生相談所で授業の相談をしているうちに精神的な不調があるのではないかと受診を勧められるケースです。自分のことでなくても、例えば周囲に元気のない友人がいる場合、理由によってはこちらを紹介してもらうのも良いと思います。」

—-友達に紹介する場合、どう声がけをすればよいでしょうか?あまりむやみに勧めてしまうと、その友人を過度に不安にさせたり、「専門家でないと手に負えない」という印象を植えつけてしまわないかと心配で…

「『あなたは病気です』とレッテルを貼るように精神保健支援室に勧めると、友達も傷つくでしょうね。そうではなく、例えば友達が気分がずっと沈んでいて、時に死にたいと考えるような場合だと、『相当辛いみたいで心配だよ。相談には乗るけど、もしかしたらうつみたいな状態かもしれないよ。学校の中に相談できる所があるから行ってみたらどう?』という勧め方はできます。

それでも本人が納得しにくい場合には、体の随伴症状に注目してあげると良いと思います。例えば、食欲がない、眠れないなどです。うつや不安などの精神的な問題は目に見えにくいため、本人が自分の状態を客観的にみられないことも多いです。そういう人にとって、『気分が落ち込んでいるようで元気ないよね』とだけ言われて病院に行くのは、まだハードルが高いかもしれません。最近眠れていない、食欲がないなどの随伴症状について病院で調べてもらうよう勧めてあげると、本人も納得しやすいことがあります。」

—-なるほど。次に、相談するまでの流れを教えてください。

「通常は、最初に看護師や心理士が問診で状態を伺います。30分から1時間ほどかかります。そのための予約を、精神科窓口もしくは電話で取ることができます。保健センターは本郷・駒場・柏の3キャンパスにありますので、受診しやすい所を使ってください。問診が終わると、次に初診の予約をとり、医師の診察を受けます。初診までの待ち時間は状況によるので、最初の問診から少し間が開くこともあります。この初診では、40分ほど話を伺います。2回目以降はネット上で予約でき、予約システムについては初診のときに説明があります。このような利用案内詳細は『精神保健支援室』のホームページにも書いてあります。

ただ、予約を待っていられないような緊急事態だと、状況に応じて近くの医療機関に案内することもあります。」

—-問診で話すのは医師ではなく看護師ですか。

「基本的には看護師もしくは心理士です。ただ緊急性が高い場合には例外もありますし、それ以外でもまず医師と話したいという要望のある場合だと、それをその要望を伺うことはできます。そのときでも前もって状況を把握したいので、最初に病歴や症状を問診で伺えるとありがたいです。」

—-私も以前、学生相談所で問診を受けたことがあるのですが、個人情報を多く聞かれました。精神保健支援室の問診でもそうなるのでしょうか。

「医療全般にいえることですが、病歴や家族構成など、個人情報に相当する情報を伺うことは多くあります。これらは今の病状に関係があるかもしれないからです。例えば、「眠れない」という症状の場合、色々な原因が考えられます。睡眠障害で睡眠薬の治療が必要な場合もあれば、うつ病による不眠でうつ病の治療が必要な場合もあるかもしれません。しかしもし、家の周りの工事の騒音が影響して不眠になっているということなら、睡眠環境を改善させることを考えなければいけないですよね。住んでいる環境などは個人情報ですが、治療の上で重要な可能性があります。

同じように、今の環境に精神的なストレスを感じている場合、今まで育ってきた環境や家族関係が関係しているかもしれません。本人にとっては関係ないと思うことでも、実は重要なことがあります。こういう意味で、色々な個人情報を伺うことになります。

もちろん、話したくないことを無理やり聞くことはしません。それについて、話したくない理由を無理のない範囲で伺うことはあります。」

—-そういった個人情報はどのように記録されますか。

「聞いた内容を全て覚えることができないため、電子カルテや紙などに記録させていただきます。医師(や看護師、公認心理師等)には守秘義務があり、法律で守られています。伺った内容を外にみだりに出すことはありません。相談支援研究開発センター内(学生相談所など)で連携する際に情報を共有することがありますが、ご本人の希望であればそうしないようにすることもできます。」

—-少し違う質問なのですが、学生が医師や看護師との相性が良くないと感じる場合はありますか。またその場合、担当を交代することはあるのでしょうか。

「基本的には同じ医師が担当します。これは、精神的な不調について取り扱う場合、継続的に担当させていただいた方が、病状の変化を捉えやすく、本人の問題解決に近づくことが多いからです。また、精神的な内容を取り扱うとき、場合によっては担当者との相性が悪く感じることがありますが、病状やその人の背景が影響していることも多いです。例えば、病状により気分が落ち込み、今までに関係を築いていた人との関係が嫌になり、相性が良くないと考えて担当を変えたいといった場合、相性が良くないと感じること自体がうつ病の症状に影響を受けている可能性があり、担当者を変えることが治療に有益となる可能性は低いです。また、担当者が自分の嫌いな人に似ていて嫌なので変えて欲しいといった場合、担当者との相性よりもその人を取り巻く人間関係に問題があったり、あるいは、その人の他者に対する印象の抱きかたに歪みがあったりするのかもしれません。担当者との相性をどのように感じたかということ自体が解決につながるヒントとなることも多く、単に相性が悪いと感じるので担当を交代すれば解決するかというと、むしろ問題解決から遠ざかってしまうケースも多いと思われます。しかしながら、どうしても替えてほしい場合には事情を聞いた上で考慮します。人と人の関係だから相性は多少あるので、利用してみて相性が合わないと感じた時には、そのことを担当者に相談してください。担当者に直接相談することが難しいようであれば受付に相談してください。担当を交代することも選択肢として治療に有益となるように状況を判断し対処します。」

—-今は強い症状や悩みがなくても将来的に自分や周囲の人が精神疾患を経験するかもしれません。そのときのために知っておくべきことや心がけてほしいことはありますか。

 生涯で1回でも精神科を受診する割合は大体4人に1人くらいと言われています。また、生涯でうつ病や不安障害などの精神疾患にかかる割合は大体5人に1人くらいと言われています。精神科にかかっていない人の中で、本当は医療機関を受診するべき人を含めるともっと多いかもしれません。一生のうちにどこかの時期で精神の不調をきたすことは珍しいことではありません。

 珍しくないから、対処しなくていいわけではありません。精神の健康を保つには適切な予防や早めの治療が必要です。これは他の病気でも同じですよね。もし辛いことがあればまず早めに相談することが大事です。周りの人も『心配だったら精神科にかかってみたら?』と相談に乗ってあげるといいかもしれません。

 我々精神科医はそのようなメンタルヘルスの知識を世の中に広める使命があると感じています。熱が出て鼻水が出て喉が痛かったら経験的に風邪だと考えますよね。どうしたらいいか分からないことは少なく、うがい手洗いをしたり暖かくして休んだりします。ところが、精神疾患に関してはあまり知識が広まっていません。例えば、うつ病で、症状として2週間くらいずっと気分が塞いで、何もする気が起きないといった場合でも、自分はうつ病ではなく、単に怠けてだめな人間だと考えてしまうかもしれません。うつの症状かもしれないと考えて早めに相談できれば良いですが、まだ知識が世の中に広く行き渡っていません。我々精神科医がメンタルヘルス向上のための啓蒙活動をすることも重要ですし、皆さんがもし不調になったときは早めに相談に行ったり、周りの人が困っているときは相談に乗ったりすることが大事です。

 特に学内であれば相談室があるので、どこかを利用してもらえるといいかもしれません。例えばいきなり保健センターに来るハードルが高いようでしたらなんでも相談コーナーや学生相談所で相談してみてください。1回で悩みが完全に解決するのは稀ですが少なくとも見通しは立てられると思います。

 卒業後は精神科のクリニックや地域の相談室などが利用できます。精神保健福祉法という法律により各都道府県に精神保健福祉センター等が作られています。東京都は上野、上北沢、多摩の3ヶ所でこころの健康の向上や、自立と社会復帰を目指す方の支援、関係諸機関との連携などの役割を担っています。心の問題や病気で困っているご本人、ご家族及び関係者がセンターで相談できます。」

—-精神保健福祉センターというものがあるんですね。自分だけでなく、周りの人が不調になっている時に行ってもいいということでしたが、初めて精神科にかかる人はとりあえずそこに行けばいいのでしょうか?

「最初は病院やクリニックの精神科でもいいですし、精神保健福祉センターに行ってもいいです。自分のことだけでなく、周りの人、例えば家族が不調になっている時に相談することもできます。」

—-いろいろなライフイベントをこれから経験する学生は利用できる機関を知っておいた方がいいですね。

「そうですね。自分が不調になる可能性もあるし、ライフイベントを経て上司になったときに自分の部下が不調になったらどう声をかけてあげられるかといったメンタルヘルスの知識は重要です。」

—-うつ病の薬を飲んでいる友人がいます。具体的に友達をどうやって励ましたり、付き合っていけばいいでしょうか。

「気分が落ち込むのは誰でも起こり得ますが、うつ病は気分の落ち込みが長い期間続き、症状が悪いときは思考力や集中力、意欲の著しい低下が伴います。一般的に気分が落ち込んでいる時と異なり、うつ病の症状が悪い時には励ましたりすると逆効果となるときがあります。気力が全くない、元気がない、悲しくて辛いという症状が強い時に『頑張れ』と励まされると『こんなに辛いのにもっと頑張らなきゃいけないのか』、『もっと頑張らないといけないのにその気力がでない自分はダメだ』と思ってしまいます。また、動くこと自体が辛いかもしれないので、気分転換を勧めるのも良くないですね。旅行や映画を勧められたけど面白く感じず、『励ましてくれているのに楽しめない自分はだめだ』と思ってしまいます。

 うつで落ち込んでいるときは休ませてあげましょう。アドバイスをしてその人を無理に変える時期ではないので、周りの人はそばに寄り添う存在でいてください。月日がかかるかもしれませんが、そうしてだんだん気分が落ち着いてきたら、その人のペースで頑張っていくことも可能です。この段階でも根拠のない励ましは良くないですが、無理していないかを確認しながらできることを少しずつ頑張っていこうと励ましてあげられると良いです。」

—-例えば「あなたはこういう才能を持っているよ」と励ましてもいいでしょうか。

「これは時期によります。思考力や自尊心が落ちているときに『あなたはこういう才能があるよ』と言っても『私にはそれぐらいしかない』と否定的に思ってしまう可能性があるので、状況をみて判断してください。

 無理やり変えないことがポイントです。調子が悪いときに無理やり変えると苦痛になるので、少し調子が戻り幾らか作業や勉強ができるようになったら、少しずつ頑張ってみようと応援してあげてください。周りの人は何をどれくらい頑張るかを見極め、見守ることが大事です。」

—-友人がLINEで「実はうつなんだよね」と打ち明けてきて、力になりたいと思うこともあります。そういうときは何も言わないでただ話を聴くだけでもいいのでしょうか。

「むしろただ話を聴くだけの方が良いと思います。力になりたい気持ちは良いことですが、その人を無理やり変えようとする力になってはいけないです。私はうつ病の人の診察ではまずその人の話を聞き『じゃあこう変えてみたら?』と言うよりは『その状況は辛いね』と共感します。

 その後、具体的に行動がとれることを解決策として挙げます。『あなたにはこういう良いところがあるから頑張れ』と言うのは『自分はそれが良いところだと思ってないし、何を頑張ったら良いのか分からない』と否定的に思わせ、より辛くさせる可能性があります。

 それよりも『今もし辛くて話したかったら話していいよ』『もしそれだけ辛かったら病院にかかってもいいかもしれないね』『話は聴きたいけど今日は夜遅いからそろそろ寝よう』と大きな変化をさせず、寄り添ってあげてください。」

—-定期的に状況を聞いたりするのはどうですか。

「最近どうしているのかは聞いていいと思います。でも返事がなかったらあまり話したくないんだなと思ってあげたり、返ってこなさすぎるようだったら『ちょっと心配だよ』と送ってあげたりするといいかもしれません。」

—-分かりました。そういうときに具体的にどんな言葉をかけるかって、自分で一から考えるのは難しいかもしれないですね。対応マニュアルのようなものがあると考えやすいと思いますが、何かありますか。

「COMHBO(地域精神保健福祉機構)のホームページの動画でいろいろな病気の紹介がされており、うつ病や双極性障害の方に対する接し方や本人向けの情報などが書かれています。他にも、『当事者研究』といって、当事者自身による病状や、病気との向き合い方に関して近年はよく研究されています。」

—-ありがとうございます。このような具体的なものは役立ちそうですね。

—-今日は本当にありがとうございました。

インタビュー日時:2019年12月11日

※本文中の用語・法令・資格等はインタビュー時点のものです。