バリアフリー支援室ってどんなところ?
バリアフリー支援室は、障害のある学内構成員が障害ゆえの不利益を被ることがないよう、サポートを行っている組織です。障害のある構成員に対する実際の支援は各学部・研究科等が行っていますが、バリアフリー支援室はそれに対して助言や学内の調整などを行っています。他にもバリアフリーに関する相談を行っているほか、手話でしゃべランチなどの企画もあります。
今回はバリアフリー支援室の具体的な活動内容や、社会におけるバリアフリーの現状などについて、支援室の切原先生と中津先生に伺ってみました。
(バリアフリー支援室:http://ds.adm.u-tokyo.ac.jp)
【本郷支所】
場所:学生支援センター(御殿下記念館北側)M階(B1F)
開室時間:平日9:30〜17:00
【駒場支所】
場所:教養学部8号館111号室
開室時間:平日9:30〜17:00
【本郷支所柏分室】
場所:新領域基盤棟2階2B5号室
開室時間:毎週火曜日 10:00〜16:00
※利用にあたってはHPをご確認ください。
インタビュー
〈バリアフリー支援室の概要について〉
──バリアフリー支援室ではどのような支援が行われているのでしょうか。
切原先生:
通常はお困りの本人が申し出て支援が始まります。学生がまず所属部局の支援実施担当者に申し出ると、そこからバリアフリー支援室に連絡が入り、支援面談を行います。ご本人の希望やこちらからの提案をもとに、実際の支援をおこなっていきます。ただ支援につながるルートは実際人それぞれで、直に支援室にくることもあれば、保健センターや学生相談所から連絡が来ることもあります。また、普段関わりのある教員が「心配だな」と思って声をかけて支援に繋がることもあります。
支援の内容は障害の種類によって様々で、例えば視覚障害のある方にはコンピューターで読み上げられるように本をテキスト化したり、聴覚障害のある方には音声情報を文字化したりしています。そのほかにも、障害や希望に応じて支援を行います。
バリアフリー支援室・本人の所属する部局・本部による「支援の三角形」で連携しています。
──バリアフリー支援室にいらっしゃる職員はどのような方ですか。
切原先生:
大まかに分けると教員とコーディネーター、事務職員です。教員とコーディネーターは知識があったり支援に関連する資格を持ったりしています。また、支援を行うにあたっては事務手続き等も必要になるので、事務職員の方にも協力していただいています。
──「支援に関連する資格」とは、具体的にどのようなものがありますか。
切原先生:
支援をすること自体に資格が必要なわけではありませんが、それに関連する経験や資格を持った人がいるということですね。例えば、私は教員なのですが精神科の医師でもあります。実際には医者のようにこの資格が無いと支援できない、というものはないので、全員が持っているという同じ資格というものはありません。資格という切り口で見ると持っていたり持っていなかったりしますが、経験を積んだり、研修に参加して自己研鑽を積んでいたりと、支援については専門性のある方々です。
──コロナ禍前後で支援の変化はありましたか。
切原先生:
障害のある方と言ってもコロナ禍で受けた影響については人それぞれで、この方にとってはこういう面でよかった、こういう面で悪かった、ということが個別にあると考えています。
中津先生:
コロナ禍によって支援が不要になった学生も、より必要になった学生もいます。増加傾向にあった日本全国の障害学生数はコロナ禍になった令和2年だけ減少しています。肢体不自由の方からの声が減っているのは、オンライン化により通学の困難がなくなったからかもしれません。
──なるほど。
中津先生:
視覚障害・聴覚障害などの身体障害のある学生に対しては支援の方法が変わりました。例えば視覚障害への支援では、コロナ前は学生サポートスタッフが障害のある学生の隣に座ってパソコンに入力していたのに対し、コロナ禍で遠隔でサポートするようになりました。障害のある学生は授業に接続するパソコンに、音声認識アプリをダウンロードしたスマートフォンを繋いで受講し、サポートスタッフはアプリの誤認識をリアルタイムで修正する形で、支援を行っています。
──パソコン・ノートテイクの支援や、書籍のデータ化などの支援は、全学で1年に何件程行われているのでしょうか。
中津先生:
パソコン・ノートテイクについては、聴覚障害の学生が必要とするだけ行われており、何件という形では集計していません。書籍のデータ化は図書館が行っており、年間100件くらいと聞いています。コロナ禍で授業に必要な資料が電子データとして配布されるようになったためか、最近は件数が減っているようです。
──サポートスタッフの人数はどのくらいの規模になるのでしょうか。また、サポートスタッフが特に足りない部局はありますか。
中津先生:
5月19日現在で、133名が登録しており、毎年150名くらいで推移しています。支援を受ける学生と同じ専門のスタッフが必要となるため、全体として足りないということはありませんが、特定分野で必要としている場合はあります。あえて言えば、理系の大学院生といったところでしょうか。
──手話でしゃべランチという企画を実施されていますが、どのような雰囲気のイベントなのでしょうか。
中津先生:
手話でしゃべランチは、ろうの支援室スタッフが手話を教えており、学内のあらゆる構成員が参加できます。手話をがっつり習得するというよりは、学内の聞こえない構成員も、聞こえる構成員も交流しながらお互いのことを知ろうという目的で行っています。例えば、「GWは何をしましたか?」という話を緩やかにするイメージです。
──手話の全くできない人でも参加できますか?
中津先生:
はい、初心者大歓迎です!
〈東大におけるバリアフリーの現状について〉
──東大内におけるバリアフリー意識の現状についてどのように認識されていますか。
切原先生:
D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)※1が広く取り組まれるようになって、大学側の意識も良い方向に変わってきていると思います。支援を希望する学生の数も年々増え、大学職員の方の協力も増えている印象があります。少しずつバリアフリーに対しての理解が深まってきているのではないでしょうか。
(※1 https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/actions/diversity-inclusion.html)
──東大のバリアフリーは比較的充実した水準にあると聞きますが、他の大学と比べて充実している部分は何でしょうか。
切原先生:
他大学との違いについて、はっきりとは分かりませんが、東大では支援室に関わる教職員に当事者の方が多く、実体験に基づいた支援に繋げやすいことが特徴として挙げられると思います。また、ユニークな点として、支援対象が学生だけではなく、教職員も含まれていることがあるかと思います。こちらもはっきりと言えるわけではないのですが、海外との比較でいえば、支援対象の人数が大きく異なります。障害のある学生の割合は、日本学生支援機構によれば、日本ではおよそ1%であるのに対し、アメリカやイギリスでは10%を超えています。そうした点で、海外と比べればまだまだなのではないかと思います。
──障害にもさまざまなバリエーションがあり、自分や他者から気づかれにくい・わかりにくいものもあるかと思います。そうした障害がある方へ、どのような支援を行っているのでしょうか。また、さらに支援を十分届けていくためには何が必要だと考えられますか。
切原先生:
難しい問題だと思います。基本的に本人の申し出が支援の出発点になるので、本人も気づきにくいことや、気づいても申し出にくいことについては支援に繋がりにくいのが現状です。できることとしては啓発を進め、そうした障害への理解を学内に広めることだと思います。他にも情報を見かけたり、医療機関や相談機関から紹介されたりするなど、支援につながるきっかけを得やすくすることが大切だと考えています。
また、支援を受けられることを知ったものの、自分の困りごとが障害によるものなのかどうかの線引きがつけられず相談を迷っている方にも、ぜひ支援室にいらして欲しいです。相談しにくいという場合は面談の場でもそのことを配慮しており、ご自身で内容を伝えるのが難しい場合は、面談の場に希望の人を同席させるなどして、ご自身が意思を表明しやすいようにしています。支援に繋がったときに、適切なサポートを届けられるよう心掛けています。
──今後バリアフリー支援室ではどのような取り組みを進めていきたいとお考えですか。
切原先生:
支援の場になるので、多くの方が気軽に相談できるようなところにしていきたいと思います。コロナ禍での制限が緩まってきたら、これまでも行ってきたしゃべランチに限らず、新しいイベントを対面で開催していきたいです。
〈社会におけるバリアフリーについて〉
──「障害」とひと括りにされがちですが、視覚障害や発達障害などさまざまな種類があると思います。そうしたときに「障害」とは何を指すのでしょうか。また、なぜ「障がい」や「障碍」ではなく「障害」という表記を使うのでしょうか。
切原先生:
障害とは何か、という問いは突き詰めると難しい話ではありますが、障害者差別解消法が対象とする障害者の定義としては、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」※2となっています。心身の機能の障害とは、多くの場合医学的疾患が想定されていると思いますが、それに限らず、そうした疾患を背景とした生活を送る上での制限があることを、広く障害と定義しているわけです。
(※2 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000114724.pdf)
また「障害」の「害」の字の表記についてですが、障害がどこに宿るかという考え方によって、大きく医学モデルと社会モデルという考え方があります。医学モデルでは、障害が本人の中にあると考え、「がい」の字を漢字の「害」ではなくひらがなにすることがあります。一方で社会モデルでは、障害を想定せずに作られた社会や環境の方に問題があると考えます。例え本人の側に医学的疾患があっても、社会がそれを想定して作られていれば、そもそも困らずに済むのではないかということです。問題を抱えているのは本人ではなく社会の側にあるということで、障害の表記に「害する」という字を入れてもおかしくなく、解決すべき対象は社会の側にあるということになります。
先ほどコロナ禍で支援の必要が減った例もありましたが、これも「障害が社会に宿る例」だと思います。
中津先生:
障害の表記は国連の障害者権利条約の日本語訳に倣うという側面もあるため、その日本語訳が変更されればもしかしたら使われる表記も変わってくるかもしれません。また関連して、他大学では、東京大学のバリアフリー支援室にあたる施設の名称は「障害学生支援室」などとなっていますが、東京大学がバリアフリー支援室という名称を用いているのには理由があり、「私たちは障害学生へ支援するではなく、社会の側にあるバリアを取り除くための支援をしていくのである」という設立当初からの理念が込められています。
──2016年に障害者施設で殺傷事件がおき、障害がある人に対する差別的な発言がクローズアップされました。未だに社会にはこうした差別や偏見があるのではないかと思います。そうした課題に私たちはどのように向き合っていけばよいと考えますか。
切原先生:
明確にこうだというのは難しいですが、私の専門である精神障害はスティグマ(差別、偏見)のターゲット対象となりやすいこともあり、例えばスティグマの形成に関する研究や、スティグマを軽減するにはどういった介入が有効なのかを調べる介入研究もなされています。スティグマ自体が専門ではないため、そうした研究を網羅的に把握しているわけではありませんが、研究から知識を得ていくことは有効です。
大切なのは、障害のない人々が、障害がある方についての知識を持つことだと思います。障害を体験した当事者の方が語りを公開している例もあるので、それらを通して、抽象的に頭の中で想像するだけではなく、実際に障害を持った全国の人たちの語りから知識をつけることが、スティグマの解消に役立つと思います。
中津先生:
障害という軸で少数派と多数派を分けるとしたら、多数派には、障害を知ること、知ろうとすることが求められると思います。知らないことは分断を生みます。障害に対して多数派少数派問わず向き合っていく姿勢が大切です。例えばある授業に障害のある学生が出席するときに、障害のある学生が先生に対して「こういう支援をお願いします、私にはこういう障害があります」ということをたくさん説明しなければならないのですが、先生側も想像力を働かせ、たとえば「こんなサポートはどうですか」と声を掛けるなどして、多数派側が自ら進んで少数派に話を聞くようになればよいと思います。社会の構図として、「少数派がお願いして多数派が対応する」という状況が多いですが、それだけではまだ不十分だと思います。社会にある溝を取り除くためにできることを、多数派も少数派も一緒に考えて話していく社会になったらいいなと考えています。
──最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。
切原先生:
障害ゆえに困りごとがある方は、実際に支援室に来ている方よりももっとたくさんいらっしゃるのではと思っています。支援できることとできないことがありますが、まずはとにかく気軽に相談にいらしてください。
中津先生:
障害者手帳を持っていないと相談対象にならないのだろうか、というイメージがあるかもしれませんが、障害者手帳を持っているかどうかに関係なく相談を受け付けています。「こういう困りごとがあって、こういう支援が必要だ」ということをまとめ上げないと相談できないのかというと、そうではありません。「解決方法は分からないけれど、何か困っている」という場合でもぜひ相談しに来てください。
──切原先生、中津先生、ありがとうございました。
インタビュー日時:2022年5月19日
※本文中の用語・制度・法令・資格等はインタビュー時点のものです。