女性診療科ってどんなところ?
女性診療科は保健センターにあり、月経に関する不調・悩み、更年期障害、婦人科検診など、女性に関する診療を行っています。相談だけであれば無料で利用することができます。
今回は担当医の中西恵美先生にお話を伺いました。女性の方にはもちろん、あらゆるジェンダーの方にもぜひ知ってもらいたい内容となっています。
場所:本郷保健センター(地図)
診療日時:月曜日~水曜日、10:00~12:20, 14:00~15:45
※第2,4火曜日は駒場保健センター(地図)で診療を行っています。
※第3月曜日の午後(14:35~15:35)は柏保健センター(地図)で診療を行っています。
※その他、診療日時が変更となる場合があります。利用にあたってはホームページをご確認ください。
目次
- 女性診療科の概要について
- 相談内容について
- 相談体制について
- 今後について
1.女性診療科の概要について
——はじめに、設置の経緯について教えてください。
保健センターは、健康診断や健康増進など、学生生活が実り豊かなものになるように、みなさんの健康管理のお手伝いをすることを役目としています。その中で、月経に関する悩みや更年期の悩みなどの相談も、少なからずありました。以前は外部のクリニックを紹介する形式をとっていましたが、保健センター内部で相談できる形にしたほうが良いのでは、という声も上がっていました。現在の藤井総長がD&I(Diversity and Inclusion)に積極的であったため、総長就任後に実際に女性診療科設立に向けた動きが加速し、2023年10月に設置に至りました。女性診療科は、妊娠や産休といったキャリアへの悩みも含め、様々な女性特有の悩みに対応しています。
ーー予約不要とのことですが、来院後はすぐに診察してもらえるのですか。
はい、来院後に問診表を書いていただく必要がありますが、その後はすぐに受診することができます。患者さんの人数にもよりますが、長くても20分くらいの待ち時間となることがほとんどです。
ーーほかの学生とすれ違ったり話し声が聞こえたりしないようにするための動線の工夫などはありますか。
待合室は保健センター全体で共有なので完全に分かれてはいませんが、部屋に呼ぶ際は「〇〇さん、〇番にどうぞ」という形で「女性診療科」と診療科の名前は言わないようにしています。また、部屋の前の扉やプレートにも「女性診療科」とは記載しないようにしています。部屋では扉を閉めているので声は聞こえません。
ーー予約不要としているのは、やはり来院のハードルを下げるためなのでしょうか。
はい、その通りです。
実際に受診された患者さんに対するアンケートをとったところ、大多数の方が予約不要ゆえ受診しやすいことを来院の理由として挙げていました。学業や仕事の合間にでもすぐ来れるというのは、患者さんにとっては非常に嬉しい点だと思います。現在のところ保健センターでは、精神科以外は予約不要となっています。
また、一般の病院・診療所での診察と異なり健康保険を使わないので、学生は診察料無料にしています。費用面でも受診のハードルを下げ、少しでも相談しやすい場となれば良いと思います。逆に保険を使わないと高額となる検査や治療については、ご相談の上近隣医療機関と連携してご紹介していますので、まずはご相談いただければと思います。
ーー留学生や教職員の方も受け入れているのですか。
はい、もちろんです。保健センターは留学生や教職員を含めた、東京大学の全ての構成員を対象としています。2023年10月からの1年間で、のべ620人ほど(このうち新規390人ほど)の方に来院していただいています。実はこのうち日本人学生は4割ほどで、後の3割が留学生、残り3割が教職員という構成比になっています。
海外では、かかりつけ医制度がしっかりしている国が多くあります。日本人学生と比べて、留学生は保健センターのような存在を身近に感じているのかもしれません。また、保険証が必要ないという点も、留学生の来院のしやすさに繋がっているのではないか、と考えています。
ーートランスジェンダーの方やノンバイナリーの方など、「女性」診療科の範囲を明確にしがたい場合もあるかと思いますが、女性診療科としては対象をどのように考えていますか。
女性診療科という名称ではありますが、来院には性別に関する制限を設けていません。そのため、出生時に割り当てられた性別が女性の方はもちろんですが、トランスジェンダーの方やノンバイナリーの方などにも来ていただけます。診察の結果、女性診療科でできることがなかったとしても、話を聞いたり、必要に応じて適切な機関に繋げたりすることはできるかもしれません。
ーー男子学生がパートナー等の月経困難、性感染、妊娠関連のことなどについて相談をすることは可能ですか。
直接診ていない人の診療はできないと法律で決まっているので、患者さん本人が同席していない場合には詳細にまでアドバイスをすることができません。ただ、相談自体は可能ですし、ほかのクリニック等では難しい相談も含めなるべく広く受け入れるように心がけています。
ーー卒業など、治療途中で大学を離れてしまう場合、最後まで診てもらうことは可能ですか。
あくまで学生および教職員のための機関であり、卒業生の受診は原則引き受けていません。しかし、患者さん一人ひとりに対して適切な診察をするという信念は変わりません。そのため、卒業する学生さんには、卒業前の段階で治療の道筋を一緒に立てるなどすることで、引き続き適切な治療を受けられるような手助けをしています。
2.相談内容について
ーーどのような相談が多いのか教えてください。
一番多いのは月経困難症と月経前症候群で、次いで月経不順です。過多月経なども含めて、月経にまつわる症状がほとんどを占めています。他にも不正出血や更年期症状や貧血、避妊の相談も多いです。緊急避妊や月経移動などの相談もあります。緊急避妊や月経移動は健康保険が効かない自費診療なので、保健センターでも市中と同様の値段での処方が可能です。オンライン診療でサポート体制が薄い状態での処方を受けている方からの相談も受け付けています。
※各症状について
・月経困難症:月経に随伴して起こる様々な症状。下腹部痛や腰痛が多く、その他頭痛や嘔気、倦怠感、下痢などがある。
・月経前症候群(PMS):月経前に現れ、月経開始後に軽快・消失する精神的・身体的な症状。情緒不安定、イライラ、抑うつ、眠気、集中力低下、睡眠障害、食欲不振・過食、腹痛、頭痛、むくみ、乳房の張りなどがある。
・緊急避妊:避妊をしなかった、あるいは避妊に失敗してしまったなど妊娠の可能性がある性交から72 時間以内に緊急避妊用のピルを飲むことで妊娠を防ぐ方法。
・月経移動:ホルモン剤(ピル)を用いて月経をずらすこと。試合や試験、その他の予定からずらすために相談しに来る人がいる。
ーーどういう場合にほかの病院を紹介しますか。
卵巣嚢腫や子宮内膜ポリープなど手術が必要な所見が見つかったり、保健センターで用意のない薬や長期的な薬の使用が必要だったりする場合は、ほかのクリニックを紹介することもあります。決まった連携先は特になく、それぞれの方が行きやすいクリニックを、時には一緒にマップを見ながら調べてご案内しています。紹介状もお渡しできます。
ーー女性診療科での「相談」と東大病院での「診療」でアプローチや処置の内容などは異なるのですか。
私が頭の中で考えていることは、保健センターでも大きな病院でも同じですね。ただ、女性診療科ではクリニックよりもじっくりお話ができるというのは良いところだと思います。ここでは時間がとれるので、薬のことに限らず、例えば生理用品や吸水ショーツの紹介、生活についてのアドバイスなどもできます。相談だけでなく、エコー検査などの治療を行うこともできます。
写真説明:本郷保健センターの女性診療科の診察室。奥にあるエコー検査機の手前には、お腹を出している時に誰かが入ってきてもプライバシーを保てるよう、診察室の扉に加えてさらにカーテンを設けている。
3.相談体制について
ーーどうしてもセンシティブな相談を受けることも多いと思います。そのような際に意識していることはありますか。
恥ずかしさや言いづらさを感じる必要はありませんが、どうしようかと思いながら女性診療科に初めて来られる方が話しやすいよう、ゆっくり話を聞けるように、と思っています。
ーー継続的な相談をされる方もいますか。こういう症状だったらまた来てください、というような対応もあるのですか。
そうですね、何回も来てくださっている方はいますね。
例えば、今すぐ治療する必要はないけど卵巣が少し腫れているから別の日にまた診ようねとか、貧血のお薬を出したからまた何か月後に様子を教えてねとか、ありますね。あとは、月経痛とかPMSで相談に来た方に、すぐに薬は処方せずに治療法があることだけ伝えて、必要があればまた来てね、というところで終わることはあります。しばらくしてからやってみたいです、という形でもう一回来てくれる人もいますね。
ーー1日どれくらいの方が受診するのですか。一人につき何分ぐらいお話されているんですか。
月火水のみなので、今は一日に6-7人ぐらいですかね。最初は1-2人だったのですが、増えてきています。時間は、早く終わる人はもちろん早く終わるけど、色々20-30分ぐらい話す方もいます。普通のクリニックではそんなにゆっくり話せないですよね。長く話すことが必ず良いという訳でもないですけど、お話が必要な人にはそれぐらい話せる環境にあります。
ーー駒場・柏の診療体制について教えてください。
現在、月2回は駒場で、月1回は柏です。
駒場は現在、多くて1日7人くらいの方が来てくれています。以前は職員の方の受診が多かったですが、最近は学生さんの受診も増えています。
柏はそれほど多くなく、1日数人程度の方が来てくれています。
ーー駒場で学生の受診が増えたのには、何か要因があるのでしょうか。
メールや、生協・食堂などのお知らせを見て来てくれる方が多いです。ほかにも新入生健診でブースをもらって相談に乗ることも行っており、そういったものがじわじわと浸透してきているのかなと思います。
駒場の学生さんは高校を卒業したばかりの方が多いので、「女性診療科を受診する」という選択肢すら持っていない方が多いのではないかと思います。どうして女性診療科を受診しづらいかについてアンケートをした際も、「困っている症状が相談していいものかわからない」という回答が一番多かったんですよね。
保健室を利用するような気軽さで来ていただけるといいなと思います。
ーーほかにはどんな広報をしているのですか。
学生さん宛にメールを送ったり、生協や食堂などでの広報活動のほか、教養学部のホームページにもお知らせを掲載しています。駒場キャンパスでは、学術フロンティア講義「ジェンダーを考える」(小川真理子特任准教授)から依頼をいただいて11月に講義を行い、そこで女性診療科についてもお話ししました。
保健センターのホームページでもいろいろ情報は出していますが、アクセスしてもらえないと見てもらえないので、皆さんにどのようにしたら情報を届けられるかは課題です。協力してくれる保健師さんもいっぱいいるので、一緒に広報資料を作ってもらいながら試行錯誤しています。
ーー現在おひとりで本郷・駒場・柏を担当されていますが、今後診療日が増えたり、増員されたりすることはあるのでしょうか。
今後配分が変わる可能性はあると思います。
増員に関しては難しいところもありますが、みなさんからの要望が強ければ増やしてもらえるかもしれないです。ぜひ希望があればお願いします。
ーー女性診療科でのお仕事のやりがいはどのように感じていますか。
とてもやりがいを感じています。
もともと私は性教育に興味があり、ずっと携わりたいと思っていたのですが、病院で働いているとなかなかそういう余裕はなくてできていなくて、そんな中このお話をいただきました。
保健センターは、診療だけではなくて啓発をするというのも大切な役割だと思っています。ただ来てくれる人の数を増やすだけではなくて、困ったことがあったら病院に行って受診すると良いよとか、これは異常なことだよとか、こういうことで頼ってくれたら良いよとかいうのを啓発することで、保健センターに来なくても、どこかのクリニックに行ってくれれば良いわけですよね。その結果は知りようがないから効果は分からないんだけど、啓発活動というのもできるというのはやりがいがあるなと思っています。治療も大事ですが、そうやって一歩踏み出すきっかけを差し上げられたらなと思っています。
4.今後について
ーー女性診療について、東京大学ならではの特徴はありますか。
研究者の方が多いためか、PMS(月経前症候群)で悩んでいる方が多いです。例えば、PMSのせいで集中して論文が読めないという声を多く聞きました。
ほかに東大の特徴として、女性診療科が常設されている例は知っている限りでは他大学にはなく、企業などを含めても非常に珍しい、というところもあります。
ーー以前の東大新聞のインタビューで、ユースクリニックについて言及されていましたが、詳しく教えてもらえますか。
※東大新聞のインタビュー記事はこちら
※ユースクリニック:心や身体、月経や妊娠など性の悩みを若者が気軽に相談できる場所のこと。
日本にはまだ少ないが、スウェーデンには産婦人科医や看護師、助産師、臨床心理士が待機し、これらの相談が無料でできる施設が多数ある。
女性診療科が、性の相談、避妊の相談を気軽にできる場になればいいなと思っています。保健センターが、ユースクリニックのような気軽さで、普通のクリニックで行っているような診察もできればいいなと思っています。
ーー設立から1年経ちましたが、成果や課題を教えてください。
成果としては、1年で390人くらいの方が来てくれたことです。初めて産婦人科を受診したという方も4割程度おり、そのような方々に適切なアドバイスや医療を提供し、不安を軽くすることができていれば、とてもいいことだと思います。
あとは、実際には感じづらい点ですが、啓発により受診などにつながっていればそれも大きな成果だと思います。
一方で、どうやってみんなに適切な情報を届けていくかは課題です。女性診療科を受診する、といった選択肢をどのように持ってもらうか。病気でなくても、月経移動や緊急避妊など、知っておくといい情報は多くあるので、それらを伝えていきたいと考えています。
ーー女性診療について、男性が知っておくべきことはありますか。
月経について、それに関する症状などは知っておいてほしいなと思います。女性は日々ホルモン変化があり、更年期での変化も大きく、生きづらさを感じたり、勉強や活動の困難を抱える方が多くいます。このように悩んでいる方がいるんだよ、ということをぜひ知っておいてほしいなと思います。
あとは、避妊・性関係の情報は男性も関わってくることなので、ぜひ知っておいてほしいです。
ーー今後、東京大学に期待していることはありますか。
私は女性にまつわることに関わっていますが、ほかにも色々なことで悩んでいる方がいると思います。それぞれが理解し合って、それぞれが活躍しやすいキャンパスになったらいいなと思います。
その一助として、女性が困っているならば助けたいと思っています。
インタビュー日時:2024年10月9日
※本文中の用語・制度・法令・資格等はインタビュー時点のものです。