「留学生をささえる」ということ

留学生支援室って?

 グローバル教育センター留学生支援室は、留学生等が東京大学での生活に慣れ、充実した学生生活を送るための支援を行っています(ホームページより)。言語やコミュニティなどの関係で情報の入りにくい留学生が気軽に相談できる場所として、今回、相談機関ガイドに掲載させていただきます。

 今回は、留学生支援室の大西晶子先生にお話を伺いました。すべての大学構成員の方に読んでもらいたい内容となっています。

場所:本郷キャンパス第2本部棟3階333号室(柏や駒場でも相談を受け付けていますので、詳細はウェブサイトで確認してください)

開室日時:平日10時〜17時(詳細はウェブサイトのGoogleカレンダーを参照)


目次

  1. 留学生支援室の概要
  2. 利用について
  3. 相談内容について
  4. 留学生支援室の現状
  5. 留学生支援の現場から
  6. 留学生支援室のこれから
  7. 最後に

1. 留学生支援室の概要

ーー留学生支援室でされていることについて、簡単に教えてください。

基本的には、大きな活動内容として以下の3つの柱を立てています。

①多様な個別の相談

②就職支援

③交流活動

事務手続きに関するメールでの問い合わせから、心理カウンセリングまで、留学生からの多様な相談に対応しています。 また、留学生には情報提供がとても大事で、生活に役立つ情報などを提供するメールマガジンも配信しています。(申し込みはこちらから)。

ーーどれくらいの利用者がいますか。

年間の学内からの利用は、例年3,500件から4,000件程度(延べ数)です。ただ、メール1回の問い合わせで済むこともあれば、1時間、1日かかったりと相談内容によって異なるので、人数だけでなく重みづけによる評価ができると良いとは思います。

2. 利用について

ーー相談したい場合、どれくらいすぐ話せますか。

留学生支援室は、ウォークインと予約制の両方に対応しています。もともとは全てウォークインでしたが、利用者の増加とコロナ禍に危機対応が難しくなったことによって、個別相談については予約制を取り入れた経緯があります。留学生は学外の代替手段や言語的ガイドを見つけにくい場合が多いため、可能な限り待たせないよう配慮しています。

予約不要のウォークインは14~17時で、対面とオンラインで開いています。ウォークインでは生活相談などに対応しており、心理的な相談は予約制となっています。

ーー予約方法を教えてください。予約の場合、どれくらいすぐ話せますか。

予約制の個別相談は、ウェブサイト記載のフォームから申し込みできます。常に予約が満席で新規予約がとれないという状況は避けたく、遅くとも申し込まれた次の週には話ができるように努めています。回数や頻度も場合によって異なりますが、必要だと判断すれば2週に1回1時間だったり毎週30分だったり相談の時間をとっている留学生もいます。

ーー予約の際はどのような情報を書くのですか。

最初に相談の種類(生活相談・就活について・カウンセリング・その他)を回答してもらって、それに応じて必要な情報を書いていただく形です。入力時の心理的負担を軽減するため、必須項目は最小限に抑える工夫をしています。例えば、ハラスメントの相談をしたい方から個人情報を集めすぎると、不安になってしまうこともあるからです。メール返信は英語と日本語から選択可能ですが、個別相談ではそれらに加えて中国語も対応しています。

ーーどのような人が相談に乗ってくれますか。どのような言語に対応していますか。

メンタルヘルスに関する相談には4名の心理士資格保持者(日本語・英語対応:2名、中国語対応:2名)がいます。ただし、留学生全体の約7割が中国語話者のため、中国語対応が追いつかない場合もあります。授業を受けたり研究したりするのは英語で問題なくても、やはり個人的な相談となると第一言語を使いたいと感じる方は少なくありません。

他に、心理職ではない職員が3人いて、キャリア支援や地域連携だったり個別の生活相談への対応だったりをしています。

ーー日本語、英語、中国語の相談の割合を教えてください。

複数言語で対応するケースもあるため、割合を数字で明確に示すのは難しい側面があります。

最も把握しやすい指標として、個別の相談における予約アンケートでの希望言語に注目すると、過去2年間で英語が約43%、中国語が約37%、日本語が約20%でした。これは毎年ほぼ同様の傾向です。在籍学生数を見ると中国からの留学生が最も多いですが、日本語が堪能な学生は学生相談所を利用するなど、必ずしも留学生全員が当支援室を利用しているわけではありません。日本語が非常に堪能な留学生の中には、プライドやアイデンティティの問題から、第一言語が英語や中国語であっても日本語を選択するケースも少なくありません。この場合、面談時に最も話しやすい言語を確認し、状況に応じて言語を切り替えることもあります。例えば、日本語で話し始めたものの、途中で疲れてしまい別の言語に切り替える学生もいます。別のケースとしては、中国語圏の学生が、日本人教員の考え方を知りたいといった理由で、日本人である私に相談を持ちかけることもあります。

ーー各学部にも留学生担当窓口は設置されていますが、それらと留学生支援室が連携されることはありますか。特定の相談があったとき、どちらに行けば良いでしょうか。

各学部・部局の留学生担当窓口の機能は、留学生数により大きく異なります。留学生が少ない部局では学生を細やかに把握し、研究室トラブルなどもきめ細かく対応してくださっている場合がありますが、留学生が多い部局では事務的な業務が主で、個別の相談には対応していないこともあります。適切な支援のため、学生の状況に応じて部局窓口と留学生支援室、そして学生相談所などで連携しています。

3. 相談内容について

ーーどのような相談内容が多いですか。

メンタルヘルスに関する相談や就職・進路に関する相談は多く、また特にメンタルヘルス面の相談は増加しています。

自動翻訳の普及により単純な情報取得等の生活相談は減少傾向にありますが、税務処理やマイナンバーカードなどの複雑な手続きを要するものの相談は多く寄せられています。また、手書き書類に関する問い合わせは現在も多いです。

生活相談はそれ自体が重要であると同時に、放置すれば生活破綻や研究への支障、そしてメンタル不調へと繋がる悪循環を防ぐ役割も非常に大きいと考えています。相談内容によって使う窓口を分けてしまうことによって、「仕組みの谷間」に落ち込む学生が出ないためにも、相談内容を分けず、とりあえず相談に来てもらう姿勢が今のところは最適かなと思っています。

ーー学外生も問い合わせは可能とのことですが、学内生と学外生との相談内容の違いはありますか。

学外生というよりは、学外の方からの問い合わせや地域連携・就職関連で協力している学外の方が中心です。

4. 留学生支援室の現状

ーー留学生支援室の活動内容はどのように変化してきましたか。

私が着任した20年前は、留学生支援室には心理職は誰もいない状態で、基本的にはカウンセリングをする場所というよりも生活相談や交流支援の場所でした。 私も心理職でしたが、ベースはコミュニティ支援でしたので、学生の交流支援やサークル立ち上げなどの活動を最初の5年ぐらいはしていました。 当時は留学生の数が2,500人ぐらいで、ランチ会を企画したり、留学生と国内生の交流イベントの運営などもしていました。今は留学生は5,000人を超えており、この9割が大学院生です。学部生の3.3%、大学院生の31%ぐらいが留学生になります。留学生の数が以前から大きく増えているので、現在は個別の相談の対応がメインになっており、なかなか交流活動を行う時間をとれていません。

ーー留学生増加の傾向はしばらく続きますか。コロナ禍前からの傾向ですか。

この傾向はコロナ禍以前から続いています。留学生増加の一因としては、日本人学生の大学院、特に博士課程への進学者減少が挙げられます。また、中国の高学歴化により、多くの優秀な人材が留学を選択していることも大きな要因です。世界のトップ大学における中国人・インド人学生の多さは、人口規模による自然な結果とも言えます。逆に、インド人学生が日本に増えない背景としては、イギリスやアメリカの方がIT分野などが強く、家族の移住先としても選ばれやすいといった理由があります。ただ、現在、東京大学はインド人留学生の増加に取り組んでおり、今後増える可能性もあると思います。

ーー広報はどのようにされていますか。国内生に比べて留学生にリーチアウトするのは難しいと思うのですが、工夫していることはありますか。

まずはオリエンテーションで留学生と初期段階で接点を持って、その場でメールマガジンへ登録していただくことを促しています。 メルマガは約2週に1回配信しており、大学からのお知らせだけでなく、アルバイト情報や無料イベントチケットなど学生が関心を持つ情報も掲載しています。

5. 留学生支援の現場から

ーー言語だけでなく文化的な面で留学生とのコミュニケーションで気をつけていることはありますか。

日本での一般的な対応について相談をされている場合も、学生が本質的に何を求めているのか、自国であればどのような対応が期待できるのかを尋ねると、「こういうことをしてもらえた」「こういうことをしたら退学になる」といった話が出てきます。日本の仕組みを説明する際には、学生の出身国等ではどのような状況かを考慮に入れながら対応を進めています。

守秘義務についても、頭では理解していても、完全に安心はできない学生がいます。そのため、「相談した情報が外部に出ることは原則としてない」と、学生が納得するように繰り返し説明することが重要です。カウンセリングや医療を拒否する理由として、薬を飲みたくない、あるいは病気とされた場合のデメリットを恐れるというケースも少なくありません。

100カ国以上からの留学生に対応しており、全ての国の状況を把握することはできないので、基本的には学生に直接聞くことが多いです。しかし、東アジアや東南アジアなど多くの留学生がいる国は長年相談に乗るうちに国の状況が分かってくるため、より学生の状況を理解した上で対応できるようになります。

ーー母国と日本の事情が違う故に助けを必要とする留学生もいますよね。

そうですね。なかには、乳児を連れて来て「この子を預けたい」と尋ねられるケースもあります。こうした学生の出身国では保育園が存在せず、家族やお手伝いさんが面倒を見るのが一般的であることもあり、日本では保育園に1年前から必死に申し込まないと入れないといった事情は、当然理解できません。

保育園探しのお手伝いは大学の仕事かと問われればそうではないかもしれませんが、誰も行わなければ、その学生は研究を続けることができません。

ーーどういった時にやりがいを感じますか。

「やりがい」というより「何が楽しいか」という視点での方が答えやすいかと思います。私は異文化コミュニケーションに関心がありこの職を選びました。海外の学生の話を聞くことは非常に興味深く、楽しいと感じます。学生の困難の背景にある育った環境に強い関心を持って耳を傾け、様々な国からの学生の話を通じて、人が幸せになるために必要な「人間の普遍性」に気づかされることは、長年この仕事をしていても常に新鮮です。心理職の専門的制約から、個人的な好奇心だけで深掘りはできないのですが、学生から異文化の話を聞くと「何それ!」という話が尽きず、非常に興味深いと思っています。 

ーー留学生とのコミュニケーションで特に大事にされていることはありますか。

大学のアカデミア文化という共通の基盤を前提としつつ、特にジェンダーに関する文化的な側面には注意しています。学生自身に根差した感覚と、相談員の感覚が異なる場合、それが学生の文化を批判することに繋がりかねないため、慎重に対応することを意識しています。例えば、日本のジェンダー観に女性の留学生が適応することがありますが、これが一時帰国時に親やパートナーとの間でのトラブルを引き起こす場合もあり得ます。そのため、一概に「良い」「悪い」といった価値判断が伝わらないよう配慮して、学生の最終的な選択を尊重しています。多様な反応が想定されるため、相手のスタンスが不明な段階で、自身の意見を主張しないように心掛けています。

ーー文化的に異なるために困難を感じる留学生もいるかと思うのですが、そういった相談に対しどのように対応されていますか。

そうですね、日本の大学特有の相談スタイルに対して、文化的に馴染みのない学生もいます。 「自国では対応されるのに日本ではなぜされないのか」と不満を感じる学生もいます。例えば、相談員がWeChat(微信)のような個人的な連絡先の交換を希望されることもありますが、これは固く禁じています。信頼関係を損なわずに、学生と相談員という境界線を維持することを心がけています。

ーー国際化を進める上で、大学当局がもっと対応できることはありますか。

理想を言えば、すべてのポジションに日本語と英語で対応できる職員を配置すべきなのでしょうが、現実的には難しいです。英語だけできても、それぞれの仕事がこなせるわけではありませんので。また、例えば海外の大学で学んで語学が堪能な方が日本の大学で働く場合、日本の大学ならではの、学生の固有の「困り感」を理解するためには、新たに学んでいく必要があります。

また、留学生の感覚に近いことは重要ですが、それだけが一番良いサポートになるとは限りません。留学生はこの日本の大学の中で生き延びていかなければならないからです。相談員が一緒に「日本の大学はおかしい」と言ったところで、学生の状況は翌日から変わりません。必要とされる能力は、共感力と現実的な解決能力であり、単純に英語力だけではありません。

ーー国内生に対して、何か期待することはありますか。

留学生が留学先で良い友達を作りたいと望むことは当然です。国内生にも自分の学生生活の優先順位や忙しさがあるので、お互いのニーズが合う場所、例えば言語交換の場は大事だと思います。

しかし言語交換プログラムにも課題があります。東大の留学生は、英語を第一言語とする学生は限られます。ところが言語交換の希望は「英語」が圧倒的に多い。そのため、どうしてもミスマッチが生じてしまいます。

ミスマッチを解消するための仕掛けとして、例えば、中国語の茶話会を実施しています。中国語を話したい国内生が集まると、中国語を話す留学生にとっては、その場が安心できる場となり、自然な交流とサポートが生まれると考えています。

6. 留学生支援室のこれから

​​ーー例えば他言語への対応など、留学生支援室として今後行おうとしていることはありますか。

他言語への対応拡大は、少し難しいです。日本には明確な言語政策がないため、特定の言語を追加する際には、その必要性を具体的に説明できる根拠があったほうが良いですが、現状では将来的にどの国からの学生が増加するかは予測困難です。今後も、学生のニーズに合わせて柔軟に対応していく方針です。

7. 最後に

ーー最後に、留学生やその他の学生に向けて何か伝えたいことがあれば教えてください。

大学は、様々な国の人々と出会う最初の場となることが多いかと思います。共に学び、研究することは運命共同体であり、リアルな異文化接触の場です。これは、ある意味、次の時代の予行練習であり、異文化接触はもはや選択ではなく、必須となっていくのだと思います。好き嫌いではなく、いかに協働していくかを在学中に学んでほしいと強く願っています。

ーーありがとうございました。


インタビュー日時:2025年5月9日

※本文中の用語・制度・法令・資格等はインタビュー時点のものです。